大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8673号 判決

原告

株式会社 山商

右代表者

清水留治

右訴訟代理人

湧川清

右訴訟復代理人

島田達夫

児玉康夫

被告

トランス・エイシアティック・インク

右代表者社長

カール・エイ・ウエーバー

右訴訟代理人

大脇保彦

鷲見弘

大脇雅子

外四名

主文

本訴は、日本国の裁判権に服する。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、米国通貨六万八五二二ドル及び金二八一八万五〇〇〇円並びにこれらに対する昭和五四年一〇月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の申立)

1 本件訴を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

別紙記載のとおり

二  被告の本案前の申立理由

本訴は、日本国の裁判権に服しないから、不適法として却下されるべきである。

1  渉外的民事訴訟事件についての国際裁判管轄権は、応訴の已むなきに至る被告の立場を尊重して決せられるべきであり、原則として被告の普通裁判籍所在地国の裁判権に服するものと解すべきところ、被告は、日本法に準拠して設立された法人ではなく、日本国内に事務所を有していないから、日本の裁判権に服するものではない。

2  原告は、本件消費貸借契約に基づく被告の債務の履行地が日本国内である旨主張し、民事訴訟法五条を根拠として、本訴の国際裁判管轄権が日本国にある旨主張するが、「義務履行地」は国際裁判管轄権を決する根拠とはなし得ない。すなわち、民事訴訟法は、「義務履行地」を特別裁判籍として規定しているが、これは日本国内における土地管轄に関する定めであり、これをもつて直ちに国際裁判管轄権の決定の基準として類推することはできない。また、本件において、被告の債務の履行は原告の指定する銀行に対して送金することによつて行うものとされているが、被告の送金行為は米国内で完結するのであるから、本件債務の義務履行地は日本国内であるとすることはできない。

3  本件消費貸借契約は、原被告間で昭和五一年四月ころ成立した独占的売買契約に伴なう輸出量の増加に対処するため、被告の生産増大をはかるべく資金を融資する目的でなされたものであるところ、原告は被告に対し、昭和五二年二月、右独占的売買契約に基づき、昭和五二年度分の取引量として、少なくとも鮭三〇〇ないし四〇〇トン、子持ちわかめ八〇ないし九〇トンを要請してきたため、被告は右商品の購入等に努めたのに、同年六月にいたり、原告から一方的に鮭は三〇トン、子持ちわかめは五〇トンに限つて購入する旨通告されるにいたり、被告は、原告の右債務不履行により、少なくとも六〇万ドル(約一億二〇〇〇万円相当)の損害を被つた。

そこで、原告は、本訴において、右損害賠償請求権を自働債権として、原告の本訴債権との相殺を主張する予定であるが、右損害賠償請求権に関連する証拠方法はほとんど米国内にあり、被告の立証活動の便宜、裁判所の審理の円滑な進行という見地から考えれば、本訴は米国の裁判権に服するものと解するのが妥当である。

三  本案前の申立の理由に対する原告の反論

渉外的民事訴訟事件の国際裁判管轄権については、未だ確立された国際法上の原則はなく、また、我が国内法にも明確な規定はないので、条理に反しない限り民事訴訟法の国内管轄に関する規定を準用ないし類推適用して決するべきところ、本件消費貸借契約に基づく被告の債務の履行地は、原・被告間で合意のうえ、訴外三菱銀行鉄鋼ビル支店と定められたものであり、我が国内であるから、民事訴訟法五条の類推適用により、本件訴は我が国の裁判権に服するものというべきである。また被告は、振込送金先をもつて義務履行地ということはできない旨主張するが、金銭債務の履行において、履行地は、支払場所をいうものであり、支払場所に金銭を移動する原因行為をなした場所をいうものではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

国際裁判管轄については、これを直接規定する国内法規もなく、また、よるべき条約その他一般に承認された国際法上の原則もいまだ確立していない現状においては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理によつて決定するのが相当と解されるところ、我が民訴法の国内の土地管轄に関する諸規定その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、当該訴訟事件を我が国の裁判権に服させるのが右条理に適うものというべきである。

判旨ところで、〈証拠〉を総合すると、原告の主張する本件消費貸借契約は、日本国東京都内において締結され、右弁済は、原告が指定した訴外三菱銀行鉄鋼ビル支店の原告預金口座に振込むことによりなすことが、原・被告間で合意されたことが認められ、右事実によれば、本件消費貸借契約の義務履行地は、日本国内にあることになり、したがつて、民訴法五条による裁判籍がわが国内にあることになる。

よつて、被告は、外国に本店を有する外国法人であるけれども、本訴は、わが国の裁判権に服するものと解するのが相当である。

右の点は、本訴の訴訟要件の存否に関するものであり、民訴法一八四条にいわゆる「中間の争い」に該当することは明らかであり、当裁判所はこれについて判断を示すのが相当と認める。

よつて、主文のとおり判決する。

(伊藤博)

〔請求の原因〕

一、原告は、水産物、農産物、肥料等の輸出入及び売買等を業とする会社であり、被告は米国ワシントン州シアトル市において水産物の加工及び輸出入並びに販売等を業とする会社である。

二、原告は、水産物の買付先である被告会社の代表者よりその事業の運転資金について融資の依頼を受け、左の条件で貸付契約を冒頭肩書地の原告営業所において締結し、左記金員を貸しつけた(以下第一回貸付という)。

(一) 貸付年月日 昭和五〇年一二月一九日

(二) 貸付金額 米国通貨金六七、〇〇〇ドルおよび金一、〇〇〇万円

(三) 弁済期 昭和五一年一月より向う五年間に亘り毎年均等分割返済

(四) 利息の割合 年九分

(五) 利息の支払期 昭和五一年一月より元本の各弁済期に支払

(六) その他の特約 被告が原告の承認なしに右貸付金の元本および利息の支払を怠つた場合、被告は期限の利益を失い、未払元本および利息の全額の支払を請求することができるものとする。

三、原告は、さらに昭和五一年一一月九日、被告との間で左記内容の貸付契約を原告営業所において結び、金一、二五〇万円を貸しつけた(以下第二回貸付という)。その際、第一回貸付について返済条件を改訂し、第二回貸付の条件と同一にした。

(一) 弁済期 昭和五二年一月より向う五年間に亘り毎年均等分割返済

(二) 利息の支払 (イ)米国通貨金六七、〇〇〇ドルに対し

第一回支払(昭和五二年一月)

六、〇三〇ドル

第二回支払(同 五三年一月)

五、二七四ドル

第三回支払(同 五四年一月)

三、六一八ドル

第四回支払(同 五五年一月)

二、四一二ドル

第五回支払(同 五六年一月)

一、二〇六ドル

合計 一八、五四〇ドル

(ロ)第一回貸付金一、〇〇〇円および第二回貸付金一、二五〇万円に対し

第一回支払(昭和五二年一月)

金二八五万円

第二回支払(同 五三年一月)

金一六二万円

第三回支払(同 五四年一月)

金一二一万五、〇〇〇円

第四回支払(同 五五年一月)

金八一万円

第五回支払(同 五六年一月)

金四〇万五、〇〇〇円

合計 金六〇七万五、〇〇〇円

(三) 支払方法および場所 被告は原告が指定する銀行に対し送金して支払うこと。

原告は、被告に対し支払場所即ち債務の履行地として原告の取引銀行である三菱銀行鉄鋼ビル支店(東京都千代田区丸の内一丁目八番二号)を指定した。

四、被告は、昭和五二年一月一八日、米国通貨金一九、四三〇ドル(その内訳は第一回貸付金六七、〇〇〇ドルにつき元金の第一回返済として一三、四〇〇ドルおよび利息の第一回支払として六、〇三〇ドル)を前記三菱銀行鉄鋼ビル支店に送金したが、その後は言を左右にしてその余の支払をしない。

五、よつて、原告は、被告に対しつぎの金員の支払を求める。

(一) 第一回貸付に関する未返済元金

米国通貨金五三、六〇〇ドルおよび金一、〇〇〇万円

(二) 第二回貸付に関する未返済元金

金一、二五〇万円

(三) 第一回および第二回貸付につき昭和五四年一月までに発生した未払利息

米国通貨金一四、九二二ドルおよび金五六八万五、〇〇〇円

(四) 右金員に対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例